ひとこま

はたち

【掌編】いちごみるく

数日前からダイエットを始めた。甘いものがかなり好きな私は我慢の日々を送っている。

 

ダイエットを始める少し前から入浴剤にはまったのだが、入浴剤はダイエット中の枯渇した心に潤いをもたらす素晴らしいものだった。

 

昨日溜めた水を抜き、浴槽をシャワーで適当に流す。新しい湯を溜めて今日使う入浴剤を選ぶ。

缶に入ったタイプの入浴剤を手に取り蓋を開けようとしたが、硬くて開かなかった。

懲りずに開けようとしていると、途端に柚子の柔らかい香りが漂い、その瞬間勢いよく蓋が開いた。

 

中身は空だった。

完全に柚子の気色になっていた私は空の缶を捨てなかった過去の自分を軽く恨んだ。

柚子の入浴剤はこれだけだったためしかたなく他のを探していると、“いちごみるくの香り”と書かれたのを見つけた。

ダイエット中の私にとって“いちごみるく”など無縁のはずが、こんなところで遭遇できるとは。

買った記憶こそ無かったが、迷うことなく袋を開けてまだ数センチしか溜まっていない湯の中に一気に入れた。

すると、浅い湯の中にいれた“いちごみるく”は、そこから広がる甘美な匂いからは想像できないくらいに真っ赤に水を染めた。

 

私は少し不気味に思ったが、心は既に潤いに満ちていた。